星夜光、きみのメランコリー


でも、千種が去った後に、残った問題がひとつ。


「…え、なんで王子がここにいんの?」
「彩田さんと話してない?」
「もしかして、付き合ってんの?」
「いやー、ありえないでしょ」


…この、四方八方から聞こえてくる潜めた声。聞こえたくない言葉こそ耳に入ってくるのはどうしてなのだろう。


「天香、口止まってんだけど」


ほらね、千歳くんは気づいていない。これは女の子だけの特性なのだろうか。それとも、あたしが必要以上にビクビクしてるから?



「王子が女の子と話してんの、レアじゃない? やっぱ彼女とか?」
「いやー、ないって。だって彩田さんだよ?」
「ありえないかあ、あんな子」



はっきりと聞こえてくる自分に関する話。その表面にくっ付いてくるトゲを受け止めることには、もう慣れた。

あたしは中学の “ あの ” こともあるし、気がついたら色と話してるような人間。そんな人間を、怪しく思うのは無理ない。

それは分かってるから。


「…千歳くん、連絡先は、今度で大丈夫だよ…」


それでも、さすがに気まずくなってきて、千歳くんに笑顔を向けた。いつのまにか、千種が座っていた椅子に座ってる。また、向かい合ってる。

あたしの言葉を聞いた千歳くんは、何かを伺うような顔をして、そのまま小さくため息を吐く。

…せっかく来てくれたのに、申し訳なかったかな。


両手で包んだ、購買で買ったメロンパンを見つめた。まだ3口くらいしか食べてない。でも、なんだかもう、食欲はどこかへ言ってしまった。


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