星夜光、きみのメランコリー
食べかけのメロンパンを、袋にしまおうとした時、足先でコツンと何かがぶつかった。
コツン コツン。
2、3回突かれて、それにびっくりして前を見ると、千歳くんがまだあたしの方を見ていて。
「食わねーの?」
そう言って、頬杖をついたまま、吸い込むようにじっとあたしと目を合わせた。
「…う、うん。なんか食欲なくなっちゃって…」
「なんで?」
「…」
強めの口調。なんで?なんて、そんなのここで言えるわけない。
どうしたらいいか分からないまま下唇を噛み締めていた間、千歳くんは一度も目をそらすことなんてなかった。
「バカみてー。そーいうとこばっか気にすんの」
「…!」
リストバンドを付けた右手を、ギュッと掴まれた。「あっ」と声が漏れた時にはもう、手に持っていたメロンパンは、千歳くんの大きな口に捕らえられていて。
「…っ」
掴まれていた手首と、心臓に、一気に熱が広がった。
どうしようもなく、恥ずかしかった。
「あまっ。これが昼飯とか、お前の舌と胃袋どうなってんの」
粒の大きい、透明なお砂糖がついた指。それを、千歳くんは舌先で救っていた。
…甘いもの、苦手なのかな。
「食べないなら俺が食べるけど? どうすんの」
「あ、た、食べていいよ…。食べかけでよかったらだけど…」
「食べかけっつーか、俺が今食べたからもう俺の食べかけだけど」
「あ…はい。異論ありませぬ」
そうか、千歳くんが食べちゃったから、あたしの食べかけというよりは千歳くんの食べかけになるのか…。
って、そんなことよりも、千歳くんが、あたしの食べかけを…食べたってことになるわけで。
そう考えるとやっぱり、どうしようもなく恥ずかしくなって、千歳くんの方を見ることはできなくなってしまった。