星夜光、きみのメランコリー


千歳くんはしばらく、「甘い」と苦情を言いながらもパンを食べていた。

でも、それを待っているあたしの目の前に、さっき持っていた黒いカバー付きのスマホを出してきて。


「…っこれ、ID」


パンのかたまりをゴクンと飲み飲んだ後に、そう言ってそれを渡された。

連絡先、教えてもらえるらしい。


「あ、ありがとう…」

「仕方ねーから、特別。周りの奴に教えないでよ」

「うん…!」


ピポパと入力すると、「いっしき」という文字が書かれたアカウントが浮き出してきた。アカウントの写真も、ただの黒。この間教えてもらった右京くんのとは、まるで違う。


「あ、あたしのも送ったよ」

「知ってる。今追加しといた」

「ありがとう…!」


嬉しかった。これで、千歳くんとの繋がりがまたひとつ増えた。


「いっしき」と書かれていた名前を、「千歳くん」に変えた。

嬉しくて、口元が緩む。慌てて口元を押さえて千歳くんの方を見るけれど、その時彼は、指に付いた砂糖をとるのに必死だった。


なくなって袋だけになってしまっている。もう全部、メロンパンは千歳くんのお腹の中らしい。



骨張った、でも線が細い指を見ていると、さっきの千歳くんの作品を思い出した。

白いキャンバスに描かれた、秋の日の地面に浮かぶような色の集まり。いつもは白黒の世界を描いている千歳くんが、“ 色 ” を生み出したもの。

いつも、すべて、その指先が生んでいるものだと思うと、どうしようもなく右腕が疼いた。


カワグチ先生も、千歳くんのお父さんのことを知っていた。そして、千歳くんのことを、“ 画家 ” のようだと言う。


…やっぱり、千歳くんが生み出す世界は、あたしとは違う。



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