星夜光、きみのメランコリー


それでも、胸の奥がざわつくのはどうしてだろう。
右腕が疼くのは、どうしてだろう。


千歳くんの絵を、初めて見たときのことを思い出す。

鉛筆で描かれた作品は、もう、あたしには描けないほど美しくて、命があって、彼の世界に吸い込まれる魅力があった。

きっと、ただ“ うまい ” だけじゃ、こんな感情は生まれない。こんなふうに、虜にはならなかったはずだ。

あたしは、“ 色 ” と会話することが好きで、生み出すことが好きで、それでひたすらに手を動かしていた人間。


それが認められた時だってあったけど、それよりも他の障害が多すぎて、今のあたしになっている。


…あたしは、千歳くんみたいに繊細な絵を、描くことなんてできない。



「そ、そんなこと言うと、千歳くんの目ん玉、ふたつともほじくってやるんだからね!」



悔しくて、涙がにじんだ。まったく、この間から込み上げてくる感情の正体がまるで分からない。

完全なるとばっちり。あたしのことを、千歳くんは知らないのに。心の鍵をかけて開けないのは、あたしだって同じなのに。


「…なんか小さい頃に見たアニメ映画で、そんなセリフあったな」

「じょ、冗談じゃないもん!本気なんだから!」

「分かったけど、なんでお前半泣きなの?」


まるで意味がわからないと、千歳くんはため息をついた。当たり前だ。だってあたしが泣いている理由を、彼は知らないのだから。


今までだって、本気で話したことなんてなかった。

でも、自分の作品をそんな風に言う千歳くんに、どうしようもなく感情が溢れて止まらなかったんだ。


…千歳くんのように自由自在に絵を描けなくなった、自分の右腕が憎くなった。


そして何より、それを守れなかった自分自身が、しぬほど嫌になってしまったんだ。



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