星夜光、きみのメランコリー
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一色千歳(いっしき ちとせ)くんは、色々な意味で目立ってた男の子だった。
「…あ、ねぇ。王子がいる」
夏が近くなって、汗が滲み出す季節。
今日の体育は外でソフトボール。浅木 千種(あさぎ ちぐさ)と汗を拭いながら更衣室に向かっていると、ツンとジャージを引っ張られた。
囁くように呟かれた言葉を合図に、となりのクラスである1組を見る。すると、そこには昨日の夜会ったらしい、一色くんの姿があった。
「…かっこいいよねぇ。ねぇ、あの髪色やっぱり染めてるのかな」
「ウウン、どうかな」
「綺麗な銀だよねえ。グレーというにはもったいない」
銀色。というか、星色だと思う。入学式の日に、あの髪を見た時には不良なんじゃないかと思った。まぁ、あたしの髪も随分明るいけど。
一色くんは、国語の授業を受けていた。今、あたしたちも勉強している、夏目漱石の「こころ」だ。
クラスメートが文章を読み上げているというのに、一色くんはつまらなさそうに窓から外を見ていた。
「いっつも1人でいるよねぇ、王子」
千種の足が止まる。もう少しだけ観察しておきたいらしい。まったくミーハーなオンナノコだ。
「友だち、いるのかな」
「…一色くんは、たぶん周りに溢れているものたちと会話をしているんだよ」
「えっ、何それ不思議ちゃんじゃん」
…不思議ちゃん。千種にはそう言われてしまったけど、あたしはそうだと思ったんだ。
一色くんは、きっと色々なものを感じられる人だと思う。あたしの直感がそう言っている。結構当たるんだ、あたしの勘。