星夜光、きみのメランコリー
『わぁ、すごいすごい。初めましてのコがたくさんいる。お母さん、このコたちの集まり
、色の学校みたいなの』
座り込んで “ 星夜光 ” を眺めていたところに、お母さんの白いピンヒールが見えた。
思わず作品に触ってしまわないように、でもその星空から目を逸らしてしまわないように話をすると、縮こませて胸の前でまとめてあった腕は、力任せに解かれた。
その痛みに顔をしかめながら、上を見る。白いピンヒール、八分丈のパンツを目で追っていると、お母さんの顔に到達した。
…今でも忘れない。お母さんの、その時の顔。
『…天香、こんなとこでやめて。恥ずかしいでしょう』
叱るというよりは、諭すような。でも、しっかりと土台のある怒りを、柔らかく包んだような。そんな声が、あたしの頭の上に降りかかってきた。
『色は話もしないし、こころもないのよ。あまり深く考えることはやめなさい。 』
ピシャリと、そう言われた。
あたしの世界をまるで引っ掻いてかき混ぜるようなその言葉は、一言一句、忘れたことはない。今でも、あたしの記憶に鮮明に残っている。
『あ…っ、お母さん…!』
『出口そこなんだから、もう出るわよ。天理もそこで待ってるから。』
手を引かれた。その時の痛みも、忘れない。
・
物心ついた時から、色たちにこころを感じることができていた。
クレヨンを持って、絵を描いて、色を生み出すことがすきだった。描いた絵は、全ての人たちに認められてきたんじゃないかと記憶している。
『天香ちゃんは、本当に絵が上手ね。綺麗な絵を描くわ。色遣いも、素晴らしい』
『きっと神さまからもらった指先なのね』
保育園の先生、幼稚園の先生、小学校の先生。そして、友達とそのお父さんお母さん。
夏休みや授業で描いた絵が賞をもらえば、お父さんとお母さん、そしておじいちゃんとおばあちゃんからも、喜ばれた。
『天香はきっと天才なのよ』
『たまに変なことを言いながら描いてるの。それがなければもっと集中できると思うんだけど』
『絵の教室に通わせてみたらどうかしら。天香の才能をもっと伸ばしてあげるべきよ』
そんな会話を、何度も聞いた。
でも、あたしは頑なに首を振らなかった。
だって、あたしがしたいのは “ 絵の腕をあげる ” ことじゃない。
あたしは、色を生み出して触れ合うことがしたいの。
それだけなんだ。