星夜光、きみのメランコリー
自分の世界があればいい。
時々お母さんには変な顔をされるけれど、最初のうちは我慢できた。
“ 色にこころはない ”
そう言われるのも、なんとなく納得してしまいそうになるくらいには、慣れてきていたのかもしれない。
でも、あたしが “ 人とちがう ” ことが浮き彫りになってきた小学校卒業間近。
初めて友だちがあたしの世界について話しているのを聞いた。
『天香ちゃん、色にこころが見えるんだって。そんなこと、あり得る?』
後ろの列に座っている、比較的仲のいい女の子たちだった。
『あり得ないでしょ。色が生きているなんて。人間みたいに心臓があるわけでもないのに』
『でもたまに1人で話してるんだよ。気味が悪いよね』
…気をつけておかないと、少し意識を向ければ、すぐに色の世界に引き込まれる。
まるで、人に話しかけられた感覚。声をかけられれば、耳に届いたら、反射的に返事をしてしまうように。
自分が、ひそひそと噂される理由を知ったのはこの頃だった。
あたしは当たり前にこの世界を生きてきたけれど、それが人にとって当たり前でないことを痛感した。
もうすぐ小学生でなくなってしまう。
そんな暖かくなってきた季節に、あたしは友だちから距離をとられるようになってしまったんだ。
卒業アルバムの後ろに書いてもらったメッセージは、全て黒のマジックペン。
これは中学に上がってから聞くことになったわけだけれど、クラスでいちばん目立っていた女の子が、『色がついてるとまた話し出すから、全部黒にしよう』と言ったらしい。
鉛筆の生み出す黒、マジックペンが生み出す黒は違うから、識別もできる。
でも、アルバムは本当にマジックペンの黒一色だったから、すべて同じコだった。