星夜光、きみのメランコリー





中学校では、迷ったけど美術部に入った。

友だちから距離をとられていることに気づいていたあたしは、その世界に足を踏み入れることを迷っていたけれど、どうせ入るなら好きなことがしたいと思った。

その時のあたしはまだ、周りの声よりも、色たちの声の方が心に響いていたんだと思う。


『彩田、お前、今度のコンクール応募してみるか?』


顧問のスギサキ先生からは、入ってすぐにそう声をかけられた。ゴールデンウィーク明けに出さなければいけないコンクール。

小さいコンクールらしいけれど、あたしの絵をすごいと言ってくれた先生がすすめてくれた。


『お前の作品、すきだなあ。生きている。力があるな』

『…本当ですか?』

『あぁ。絵画を習っているわけじゃあないんだろう? 素人でこれはすごい』


スギサキ先生に褒められるのは、素直に嬉しかった。先輩たちも、認めてくれた。すごい1年生が入ってきたって、言ってくれた。


あたしが色に意識を集中させることは、前よりも少なくなったけれど、あたしの作品を認めてくれる仲間ができたのが嬉しかったんだ。

だから、美術部の部員や先輩、先生のことは信頼できると思ったし、あたしはこの世界で生きていけるんだっていうのを確信していた。


この、ゴールデンウィーク明けのコンクールを始めに、あたしは様々なコンクールで受賞。

最優秀賞、特別賞、審査員賞、金賞、会長賞…。“ 賞 ” と名のつくものはすべて舐めるようにとってきた。

その度に増えていくクリーム色の紙。今は見たくもない黒で、あたしの名前が書いてある。


『天香がこんなに絵の才能を開花させるなんて思わなかったわ』

『賞状が、もう飾りきれないくらいよ』


あたしの名前が呼ばれるたびに、お母さんには笑顔が戻って行った。

おばあちゃんは、『飾りきれないのであれば、うちに飾るわ』

…そう言って、何枚かの賞状を引き取ってくれた。



中学3年の春。


引退直前までのあたしは、本当にしあわせものだったと思う。



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