追憶のディアブロ【短篇】
屋敷の正面から堂々と襲撃をかけてきた敵、ゴースト。
屋敷の最奥にあるセルゲイの部屋へ真っ直ぐ向かうには、必ずこの中庭を横切る屋根だけついた吹き抜けの廊下を通るであろう……ここまで近づいてくる銃声は迷いなく真っ直ぐと進んできている。
渡り廊下をよく見渡せるこの噴水の影。
今、ディアブロは渡り廊下の入り口に意識を集中している。
ただ、そこ一点に。
その背中からは、いつも背後に向けられている無言の威圧感が失われていた。
背後。
自らを狙う殺し屋がもう一人いることも忘れて――
訪れた千載一偶のチャンスに、背筋がゾクリと粟立つ。
正直、常に隙を見せないディアブロを撃てる機会など……この先もこないのではないのか?
そんな気すらしていた。
(今なら……)
中庭を風が吹き抜ける。
近づいている寒い季節の気配を含む冷たい風。
それが揺らす、庭木の葉ずれのおとに合わせて……気付かれないように細心の注意を払いながら、手にした銀の拳銃の銃口をディアブロの背に向け、その左胸に狙いを定める。
指先が冷たい。
震えを収めようと空を見上げる。
冴え渡る青空は、七年前を思い出させ……胸の鼓動を早くさせた。
それをようやくおさめ、トリガーにそっと手をかける。
ようやく、この日が来た。チャンスはこれを逃せばきっともう訪れない。
今までに感じたことの無いほどの重圧に、額から一筋伝い下りてきた汗が、再び吹く風に冷やされ温度を下げて首元に滑り込む。
(ママ……やっと、仇がうてる……)
全ての意識を目の前の背中に。
憎い。憎んでやまなかった男の左胸に。
近づいてるはずのゴーストの銃声も遠く聞こえるほどに、そこだけに気持ちを……
だから
気が付かなかったのだ。