きみだけに、この歌を歌うよ
九条くんはいじわるだ。
ごめん、なんて言いながらも私の赤い顔を見て笑うなんて。
そりゃあキスしてしまいそうなほど顔を近づけられたりなんかすれば、誰だってそうなるでしょ。
むうっと頬を膨らませて睨みつけても、九条くんは笑うことをやめなかった。
「まぁまぁ……そう怒るなって。でも、一瞬でも元カレのこと忘れられただろ?」
愁のことを?
言われてみれば……たしかに。
というか、なにも考える余裕なんてなかった。
手首を掴まれたその瞬間に、ぷつん、と思考回路が止まってしまったのだから。