きみだけに、この歌を歌うよ
私はふるふると、首を横に振った。
九条くんのせいじゃない。
私自身が、ここに来ることを決めたんのだから。
九条くんは悪くない。
「それは違うよ…。私はね、愁に私と付き合っていたころの思い出を、歌を通して思いだしてほしかったから…。私が、行こうって決めたから」
だけど……私が愁の好きな歌を歌っても、きっともう私と過ごした日のことなんか思い出さないだろうな。
杏里ちゃんが私と九条くんが付き合えばいい、だなんて言ったとき。
うん、そうだなって私の目を見ずに行った愁の声は冷めていたんだもの。