きみだけに、この歌を歌うよ
「だって認めたくないんだもん…。もう私が愁の彼女じゃないなんて。夢であってほしいって思うんだもんっ…」
「だけど現実を見なきゃ、いつまで経っても前に進めないだろ?」
「それは……わかってるよぉ…」
愁の気持ちが私にない以上、諦めなくちゃいけないんだってことはわかってる。
九条くんが黒いズボンのポケットから、スっと何かを手渡してきた。
それは、紺色のハンカチだった。
「ほら、涙ふけよ。ま、お前が誰を想おうが勝手だけどな。だけど、辛そうな顔されるのは嫌なんだよ」
「……ありがと…」
九条くんから受けとったハンカチを、次々に流れ落ちてくる熱い涙にぎゅっと押し当てた。