きみだけに、この歌を歌うよ
「あ……九条くん…」
振り返ると、九条くんの視線は私の奥にあった。
ふたりの友達と、笑いながら歩いていく愁の背中に注がれている。
「ひとり?俺も今から帰るところだけど、なんなら一緒に帰るか?」
愁の背中から私に視線を移した九条くんが、優しくほほ笑みかけてくれた。
私が暗い顔をしていることに気付いたようだから、きっと気を遣ってくれているのだろう。
「うん……一緒に帰る」
私が頷くと、九条くんは私のとなりをすっと通りすぎて靴箱の前に立った。
九条くんのとなりで、私も静かに靴を履き替える。