きみだけに、この歌を歌うよ
そうだ。
愁は私に怒ってるんだ。
そうに違いない。
がらがらっと部屋の窓をあけて、ドキドキしながら浜辺を見てみた。
左に顔をむけてみれば、広い浜辺に人影はない。
あるのは、浜辺の奥に見える灯台のそばで釣りをしている人がひとりだけ。
こんどは右に顔をむけてみれば、広い浜辺に……いた。
ほんとにいた……愁だ。
波に向かってぼーっと立っている、小さなあの後ろ姿。
「やだなぁ……行きたくないな…」
私はもう、愁と話したいことなんてないし。
窓際でぽつりと呟いた声は、遠くの愁に届くことはなく。
窓に背中をむけて、ズルズルと座りこんだ。