きみだけに、この歌を歌うよ
「急にごめんな。びっくりしただろ?」
先に声を発したのは、愁の方だった。
ザブンと音をたてる白波に背をむけて、その真面目な瞳には私の姿が映っている。
想像していたよりもずっと、私を見下ろす愁の目は優しかった。
「なに?」
こうして向かいあって立つのは、別れを切り出されたとき以来だ。
ふつふつと怒りがこみあげてきて、無愛想な冷たい言い方になってしまった。
私といまさら何を話すことがあるの?
文句だったら、私だってあるんだからね。
そう思っていたから、うっかり態度に出てしまったみたいだ。