きみだけに、この歌を歌うよ
「自分勝手なこと言うけど……俺のところに戻ってきてよ。どうしても菜々のこと、忘れられないんだ。忘れようと何度も思ったけど……やっぱり無理だった。なぁ……九条のところには行かないでくれよ」
私の背中に回る愁の腕に力がこもる。
愁は、私が九条くんに惹かれていることに気づいているみたいだ。
だからこうも焦ったように、今さら私に謝ってきたのかもしれない。
私の気持ちを、引き止めたいのかもしれない。
「俺にはやっぱり菜々しかいない。もうぜったい離れたりしないから、杏里からもしっかり守るから」
私は、愁を抱きしめ返すことはしなかった。