きみだけに、この歌を歌うよ




「菜々には言ってなかったんだけど……杏里のお父さんとうちの親父、実は同じ会社で働いてんだよ」

「そうなの…?」



付き合っていたころに、愁のお父さんは市役所で働いてるって聞いたことを思いだした。



「で、杏里のお父さんが社長なわけ。だからいつも親父に、杏里ちゃんの機嫌を損ねるようなことはしないでくれよって言われてたんだよな。社長は娘を溺愛してるからって」

「そうだったんだ……?」

「って……。杏里に強く言えなかった言い訳なんかして、ダセェなぁ俺…」



愁のいまの言葉で、ピンときた。

口では嫌がっておきながらも、愁が杏里ちゃんを冷たく突き放さなかった理由がわかった。



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