きみだけに、この歌を歌うよ
「ごめん。菜々の言うとおりなんだ。俺……もうしばらく歌えねぇ」
ザブン、ザブンと音を立てる波に、九条くんの小さな声が重なった。
だけど、ちゃんと、はっきりと聞きとれた。
歌えない?
歌いたくないんじゃなくて、歌えない?
「しばらく歌えないって……どうして!?どういうことなの?」
「歌唱時機能性発声障害ってやつだよ。声が掠れたり、中音域から高音域の声がでなくなったんだ」
じゃあこうして話している声が掠れているのは、その病気のせい?
「そんな……なんで?なんでそんな病気に九条くんが?」
九条くんは歌うことが好きなのに。
カラオケ番組でも、プロのシンガーになりたいって言っていた。
それなのにどうして、そんな九条くんが?