きみだけに、この歌を歌うよ
「ごめん。また今度な」
九条くんが優乃ちゃんの誘いを断ると、ほっとしてしまう自分がいた。
「ちぇ……つまんないの」
スクールバッグを片手に、早々に離れていく九条くんの背中を見つめて優乃ちゃんが呟いた。
私も、今日は帰ろう。
梓はとなりのクラスの友達と帰るみたいだし。
「菜々」
九条くんのあとを追うように教室から出ようとしたところで、愁に呼び止められた。
「一緒に帰らねぇ?」
振り返ると、そこには愁の明るい笑顔。
「一緒に……?」
「うん、そう。あっ、もしかして用事でもある?」