きみだけに、この歌を歌うよ
「歌の練習でも、するのかなぁって…」
でもそれは、どうやら違ったみたいだ。
私の深いため息と、九条くんの長いため息のタイミングが重なった。
「そんなに聴きたいわけ?」
ピンク色の傘を少し後ろへ傾けて、歩調をあわせて歩いてくれている九条くんを見あげた。
九条くんはちょっと呆れたような顔をして、私を見ている。
「うん、聴きたい…。すごく聴きたい。九条くんのお母さんだって、きっと私と同じ気持ちじゃないかなぁ…」
お母さんが誰よりも九条くんのことを応援していたのなら、いまの私と同じことを思っているはず。