きみだけに、この歌を歌うよ
九条くんは黙りこんでしまった。
雨粒が強く、傘を叩く音だけになる。
九条くんの歌がまた聴きたい。
その一心しかなくて、必死だった。
「……ごめん、それは難しいな」
しばらくの沈黙が続いたあと、九条くんは首を横にふった。
「歌ってると辛くなるんだ。母さんと一緒に歌の練習したこととか、コンテストで結果が出せなかった時に励ましてくれたこととか…。他にもいろんなことを思い出してしまうから、もう歌いたくない。本当にごめん」
「そっか。……ううん、私こそごめんね。無神経だった」