君はヴィラン ―冷血男子は結婚に懐疑的―
 早い段階で『変身』しておかなかった事を後悔しながら、由真はデバイスを装着した右腕を振り上げて言った。

「聖獣召喚! い出よ! 北神守護、玄武!」

 具現化した玄武が、由真の姿を覆い、由真は黒いスーツを身にまとった。

 仲間達が来るまで、魔獣をここに留めておかなくてはならない。

「ぐぁぁぁぁっ!」

 魔獣は、あきらかに怒っているようだった。先ほどのやりとりの記憶があるのか、由真を『敵対するもの』として認識しているそぶりがある。

 ゆらゆらと頭を揺らしながら、視線を向けようと探している。もしかすると、あの双眸は、視力が無いのかもしれない。エコロケーション? とも由真は思ったが、決めつけるのは早計だ。

 魔獣の能力はわからない、その形状、メデューサと同等ならば、視線で相手を石化する能力を持っている可能性がある。

 耳に不快な音を発しながら、探すように視線を動かす。今の所ゆっくりとした動作だが、突然機敏に動く可能性もある。

 由真は、絶えず意識を魔獣に向けながら、距離を撮り続けた。

 これは、なかなかに消耗するな、と、思いながら、じれていた。

 魔獣は、消滅させる方がたやすい。核となる人間を『生かして救う』方が難しいのだ。

 しかし、緩嫁の第一印象は悪いものであったが、命を奪うには値しない。何より、緩嫁自身がどれだけ嫌な人間だったとしても、それは由真から見てというわずかな側面に過ぎず、別の面、由真にはまだ見せていない面において、彼女を大切にしている誰かがいるかもしれない。

 魔獣から意識をそらさないように、繰り返し周辺をうかがうが、トーリの気配は無い。とはいえ、緩嫁が魔獣化するにあたり、由真は、トーリが全くの無関係と考えるのは無理があるような気がしていた。
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