君はヴィラン ―冷血男子は結婚に懐疑的―
 顔を兜で覆い隠し、その人物がトーリなのか、あるいは藍なのかはわからない。

 由真が、弦を引き絞り、矢尻の先端を向け、放ったが、矢は甲冑に阻まれ、そのまま屋上の床へ落下した。

 由真の矢は、由真の聖獣の力で具現化したもので、普通の矢よりもはるかに威力があるはずなのだが、まったく通用しなかった。

 青い甲冑が、魔獣を抱えたまま塔屋の下までやってきた。弓を持っている由真には、狙い撃ち可能な状況だが、自分には効果が無い事を知って思っているのだろう。

 実際、その後、数発放った矢はまったく通用しなかった。

「何者だ! お前は!」

 由真が叫ぶと、雨雲は霧散し、既に雨はやんでいる。わずかに雨水をしたたらせながら、青い甲冑が顔をあげた。

「我らは、魔獣を産み出すモノ、人の業を形とし、力をふるうもの」

 朗々とした、よく響く声は男のものだった。

「これは、まだ産まれたばかり、滅ぼされる事も、浄化される事も、我らは望まない、このまま連れて帰らせてもらう」

 そう言って、魔獣を抱えたまま踵を返した。

「待て!」

 無駄とわかりながら、もう一度由真は矢をつがえた。

「なにゆえ阻む、この女は、人として生きるよりも、『魔獣』として我らの手によって傀儡になる方が価値がある」

 兜の様子から、頭だけを由真の方へ向け、甲冑は言葉を続けた。

「……それは、彼女が望んでの事なのか」

 由真も、ありったけの声で叫んだ。

「知らん、我が生み出せし魔獣では無いゆえに」

 それは、いったいどういう事だろう。由真が、そう、気を取られた隙に、青い甲冑は魔獣共々姿を消した。

「……っ、くっ」

 由真は、膝をついた。手と足が震えていた。

 自分の力が通じない事への恐怖からか、一人で魔獣と対峙した為か、ともかく、目の前から脅威が去った事に安堵している自分が腹立たしかった。
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