君はヴィラン ―冷血男子は結婚に懐疑的―
 藍からの最初の連絡は、メールで入った。

 『夕食をご一緒しませんか、下記時間で問題が無ければ予約を入れておきます。』

 まさに今日の今日、朝、お付き合いしませんかという話になり、昼には、夕食を共にとメールが入る。

 由真が予想していた以上に藍の動きは拙速といえた。

 由真は、朝のミーティングの事を思い出しながら、何度も返信の文面を書いては消し、書いては消すという事を繰り返していた。

 B食、三箇所あるKIST飲食施設の中で、最もリーズナブルで、学生食堂の趣を残すそこで、由真は素子、ルナと三人で昼食をとっていた。

 既に昼食を済ませて、コーヒーを飲みつつ雑談をする素子とルナの横で、由真がスマホを難しい顔で眺めていると、ルナが尋ねた。

「めずらしいですね、由真ちゃんがスマホをいじってるの」

「ソッコーでご飯食べ終えて、後ずっとだもんね、何か難しい返事?」

 素子もルナに続く。

「うーーーー……」

 答えに困りながら、由真は素直にルナと素子に相談した。

 もちろん、相手が『代ヶ根』の名をもつ人間だという事は触れずに、先日の婚活パーティで知り合った男性と連絡先を交換したと言うと、

「お付き合いする事になったんだ!」

 ルナは素直に喜び、

「むしろ今晩の方がいいですよ、明日以降は、夜勤が回ってくる可能性もありますから」

 素子は冷静にスケジュールの都合を告げた。

 SaBAPは基本的にフラットだ、『女性だから』という理由で夜勤を免除される事も無いが、逆に『女性だから』といって電話番を押し付けられる事も無い。

 ルナは事務方の専任ではあるが、昼食時の留守番は当番制になっている。今は南雲が残ってくれているため、三人揃って昼食に出ることができた。

 素子が言う通り、明日以降は由真にも夜勤が回ってくる可能性がある。

「そっか、そうだね」

 由真は、やっと笑顔を作って、藍からのメールに返信した。
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