君はヴィラン ―冷血男子は結婚に懐疑的―
コーヒーショップの中を見回すと、奥のソファ席でノートパソコンを使っている藍の姿があった。集中しているようで、周囲へ意識がいっていないようだ。
由真は、一度まっすぐ藍の方へ行き、声をかけた。
「こんばんは」
由真が声をかけると、ややああって藍が顔を上げた。
めずらしく、藍は鉄面皮のままではなく、驚いた様子を顔に出した。
「こんばんは、……申し訳ありません、少しだけ待っていただいてもいいですか? あと少しで、きりがつきますので」
由真は、カウンターへ行き、注文したコーヒーを持って藍の向かいの席に座った。
藍は、由真が表れた事でいっそう集中したのか、周囲の音などまったく聞こえていない様子でキーボードを叩き続けた。
その、手の動きには、迷いが無く、ミスタッチも無く、リズミカルに一定のテンポで続いていく。何かに迷ったり、考えこんだりする事なく、よどみなく、思考が指先を通じて溢れ出るようなタッチだった。
由真は、コーヒーを飲みながら、藍をじっと見ていた。
入力された文字列を追いかけている視線。
身体は動かず、指と視線だけが動いている様子は、どこか機械じみている。
会話における言葉使いも、藍はどこか翻訳めいていてぎこちない。
由真は、そう多くは無い記憶の中の男性遍歴をたどりながら、藍が、そうした過去の男たちとは一線を画す個性の持ち主なのだという事と、何故ここまで心惹かれてしまうのかをぼんやりと考えていた。
由真は、一度まっすぐ藍の方へ行き、声をかけた。
「こんばんは」
由真が声をかけると、ややああって藍が顔を上げた。
めずらしく、藍は鉄面皮のままではなく、驚いた様子を顔に出した。
「こんばんは、……申し訳ありません、少しだけ待っていただいてもいいですか? あと少しで、きりがつきますので」
由真は、カウンターへ行き、注文したコーヒーを持って藍の向かいの席に座った。
藍は、由真が表れた事でいっそう集中したのか、周囲の音などまったく聞こえていない様子でキーボードを叩き続けた。
その、手の動きには、迷いが無く、ミスタッチも無く、リズミカルに一定のテンポで続いていく。何かに迷ったり、考えこんだりする事なく、よどみなく、思考が指先を通じて溢れ出るようなタッチだった。
由真は、コーヒーを飲みながら、藍をじっと見ていた。
入力された文字列を追いかけている視線。
身体は動かず、指と視線だけが動いている様子は、どこか機械じみている。
会話における言葉使いも、藍はどこか翻訳めいていてぎこちない。
由真は、そう多くは無い記憶の中の男性遍歴をたどりながら、藍が、そうした過去の男たちとは一線を画す個性の持ち主なのだという事と、何故ここまで心惹かれてしまうのかをぼんやりと考えていた。