君はヴィラン ―冷血男子は結婚に懐疑的―
 ……自分を、率直に受け入れてくれた事が、うれしかったのかもしれない。

 あとは、単純に好みの問題なのかなあ。とも、思った。

 骨ばった手の、長い指。
 切れ長のすっきりした目元。
 あとは、鉄面皮からのギャップ。藍が表情を崩したのをまだ一度しか見ていない。
 感情を表すところを、もっと見たいと思ってしまう。

 今まで、そんな風に異性を見たことは無かった。

 同じクラスだったとか、バイト先の先輩とか、同じ時間を過ごしながら、何となく付き合う事が多かった。

 藍に会って、一緒にいたのは数時間だというのに、
 声を聞きたいと思ってしまう。

 それどころか、触れて欲しい、と、思ってしまう。

「おまたせしました」

 ふわふわと意識が宙に浮いていたところを、いきなり地上に引き戻された感じで、由真は顔をあげた。ひどく近いところに藍の顔があって二度驚いた。

 すでにテーブルの上も片付いていて、藍の方は荷物もまとめていた。

 由真も、あわててタンブラーを手に立ち上がった。

「すみません、お疲れでしたか」

 抑揚の無い声で言うが、言葉の上ではあるがそこには由真を気遣う様子があった。見た目ではまったくわからないけれども。

「いえ、大丈夫です」

 由真が笑顔で返したが、藍は特に変わらない様子で、

「では、行きましょうか」

 と、言って、すたすたと歩き出した。

 店を出て、藍の後を着いて行き、駐車場で車に乗るように勧められた。

 車で、予約を入れたのだというイタリアンレストランまで、特別話す事は無かったためか、終始無言だった。

 沈黙が続くにも関わらず、それを気まずいと思わないのは何故だろうか考えていたら、すぐに到着してしまった。
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