君はヴィラン ―冷血男子は結婚に懐疑的―
 着席し、まず最初に由真は藍に謝罪された。

「え……、どういう事でしょうか」

 着席し、食前酒が(ドライバーの藍はノンアルコールカクテルをオーダーしていた)出される前の事だ。

 いきなりの謝罪はどういう意味だろう、やはり付き合えない、とか、そういった事だろうか。と、由真も困惑する。

「自分から誘っておきながら、お待たせしてしまいました」

「ああ、そんな事ですか」

 由真はほっとして、肩の力を抜いた。

「私は、自分が約束の時間にあんな風に待たされたら不快に感じます」

 淡々とした様子で藍が続ける。

「時間を奪われるのは、苦痛ではありませんか?」

 藍の視線が、由真の表情を探るように見つめた。

「そうですね、いたずらに時間を無駄にされるのは私も好きじゃないですけど、」

 由真が、言葉を探しながら続けた。

「始めに、時間がかかるという事を言ってくれましたし、……その、待っている間、代ヶ根さんを見ていられたので、退屈しませんでした、無遠慮にじろじろ見られるのって、嫌じゃないですか?」

「あなたに見られるなら、かまいません」

 表情を変えずに、さらりと藍は言った。

 ……なんというか、唐突に甘い事を言うんだよなあ、と、由真は赤面しながら藍を見た。

 しかし、藍の方は全く表情を変えていない。

 本気なのか、単に顔に出ないだけなのか、どのレベルになれば藍の表情を変えさせる事ができるのだろうと思いながら、由真は次に言うべき言葉が見つからなかった。

「赤面されているようですが、それは、私の言葉に反応して下さったという事でしょうか?」

「……はい、そうです」

 赤面したまま由真が答えると、そこで始めて藍が破顔した。

「うれしいです」

 本当に一瞬、にぱっ、と、笑い、藍の顔は、またすぐに元の鉄面皮に戻った。
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