君はヴィラン ―冷血男子は結婚に懐疑的―
 なんというか、こういうのは、本当に反則だなあ、と、由真は思う。
 笑わないからこその希少価値というのか、もっと笑って欲しいと思ってしまう。

 食事が進み、他愛ない話をする。
 藍の表情は変わらないが、言葉の端々に柔らかさのようなものを感じる。

 藍の話は興味深かった。
 職務上具体的な話はできないという事だったが、モノを作る仕事なのだという。

 きっかけを探り、必要な情報を探し、与えることで、発現するという現象。

「お仕事、好きなんですね」

 由真が言うと、

「はい、楽しいです、とても」

 楽しい、と、口では言っているものの、藍の瞳はどこか昏い。

「由真さんは、どうですか? お仕事」

 ……仕事、と、言われて、由真は少し言葉につまった。
 仕事は好きだ。
 何よりも、『自分にしかできない』という使命感がある。

「私も、好きです、仕事……、達成感、ありますし、職場環境もいいですし」

 由真は、微笑んでそう言った。

 魔獣を浄化するのは、自分たちしかできない。

 本来であれば『魔獣を発生させない』事が一番よいのだけれど、それには、聖獣の力は直接的には必要が無い。

 KISTそのものは、魔獣を発生させない事をテーマにして研究を行っているセクションもあるが、今の所決定打になるものはわかっていない。

 そこで、由真はふと思い至った。
 人為的、組織的に魔獣化を推進する事が可能なのならば、反対に抑制することも可能なのでは無いだろうか。と。

「……黛さん?」

「すみません、ちょっと、思いついた事があって」

「ありますね、会話の途中で思いつきがあるという事も」
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