君はヴィラン ―冷血男子は結婚に懐疑的―
汝恋路を邪魔するものよ
 藍が車に乗ったところで、トーリから音声通話の着信があった。車載ハンズフリーにしている為、運転しながら会話できるようにしてある。

「やー、ゴメンね、デートの邪魔しちゃったかな?」

 スピーカーからは陽気なトーリの声が響く。

「わざとですか、わざとですよね?」

 藍はあまり抑揚の無い、感情のこもらない口調だが、そこにはあからさまに不愉快な様子が含まれている。

「まあ、いいです、彼女の方も仕事と言って帰って行きましたから」

「あれ? じゃあ婚前交渉失敗? ゴッメーーン」

「まだ初回です、そんなこと考えてません」

「えーーー、それって初回じゃなければそういうつもりって事? もー、藍ってばむっつりスケベなんだから」

「無駄口を叩かないでください、こんな時間に動いたのは何故ですか?」

「い・や・が・ら・せ」

 聞いた自分がバカだった……といった様子で、藍はステアリングを握りながらため息をついた。

「だったら自分で収集をつけて下さい、私はもう帰りますから」

「ええっ! でも、あの、黒い子、来るかもよ?」

「……アレは、敵です」

「へええ、すごく気にかけていたっぽく見えたけど?」

「あなたあの場にいなかったじゃないですか」

「でも『見て』はいたよ、あの場で殺っちゃえばよかったじゃん」

「……わかりました、行きます」

 これ以上詮索されたくないとばかりに藍は答えた。

「でもさー、藍はなんであの黒い子が気にかかるの? やっぱ身体? スーツ着てても身体のライン見えるから、あれかえってエロいよね〜、あれ作ったやつ、相当エロの人だよね〜」

 ぶつっ。

 勢い良く藍は会話を物理的に終わらせた。
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