君はヴィラン ―冷血男子は結婚に懐疑的―
 由真が、駐車場にバイクをとめて、津久根山神社、鳥居にたどり着くと、既に藍が待ち受けていた。

 周囲に人の気配は無い。約束通り藍は一人で来たようだ。

「お待たせしました」

 由真が言うと、藍も答えた。

「少し、歩きましょうか」

 津久根山山腹にある津久根山神社からは眼下に津久根市の夜景が見える。

 創建は古く、関東に人が住むようになった頃から鎮座しているという歴史のある神域と、人の住まう町の夜景のコントラストは、ちぐはぐだが、美しかった。

 人気の無い境内を並んで歩く。

「……緩嫁さんは、今、どこにいるんですか」

 先に、由真の方から尋ねた。

「何故私にそんな事を聞くんですか?」

 一瞬、藍がとぼけるように言った。けれど、すぐに自分の言葉を自ら否定するようにかぶりをふった。

「いえ、今更ですね、あなたも、あの場にいたんですね、黛さん」

「そして、あなたも……代ヶ根さん」

 由真と藍は互いを見て、自分の発した言葉が誤りでない事を確かめた。
 できれば、そうであって欲しくないと思っていた。
 けれど、予想はいつだって悪い方が当たるものだ。

「あなた達は、何が目的なんですか」

 簡単に教えてもらう事はできないだろう、けれど由真はそれを確かめずにはいられなかった。

「それを話したら、あなたは私と一緒に来てくれますか」

 由真が、足を止めた。

 魔獣を滅する事であれば、SaBAPのメンバー、聖獣の加護を持つものであれば、誰にでもできる。しかし、魔獣になった人間を元に戻すには、五人全員の力を結集しなくてはならない。

 だが、それを今、由真の口から藍に語るわけにはいかなかった。

 そう、その事を秘さねばならないと思ってしまった時点で、由真は藍の手をとることはできないのだと強く感じた。
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