君はヴィラン ―冷血男子は結婚に懐疑的―
カオス・ウエディング・パーティ
「お疲れ様でした〜♪」
SaBAPは、黄金川科学技術研究所(Koganegawa Institute of Science and Technology
略称KIST)内に本部を持っている。由真達の社会的な肩書は、KISTの研究員だ。
本部に戻ると、事務仕事を一手に引き受ける鳴海月(なるみ るな)が出迎えてくれた。
最奥に、全体を見渡せる席があり、ルナの席はそのすぐ横にある。由真達は各々壁に沿った形のブースに個人スペースがあるが、中央の円卓にもそれぞれの席があった。
由真は、自分のブースに入らず、まず円卓に座ってルナの入れてくれるハーブティーで一息つくことにしていた。
「由真ちゃん、おつかれ!」
ルナの笑顔はメンバー全員の癒やしだ、と、由真は思っている。
「あー、ありがとー、ルナのお茶、美味しい〜♪」
一口すすって、ぬくもりが身体に沁みこんでいくようだ、と、由真は思った。
「あ、僕コーヒーがいいな」
礼門が言うより早く、ルナは礼門の席に彼のカップを置いた。もちろんその中に入っているのはコーヒーだ。
ルナは、全員の好みを把握していて、個別に飲み物を準備してくれている。細やかなな配慮、心遣いを由真は尊敬し、折々に褒めるのだけれど、ルナとしては、それが『当たり前』のようで、一方的に恐縮されてしまう。
「あー、美味しい〜、ルナが待ってくれてると思うと、ツラい仕事もがんばれるよ〜」
いつも調子のいい礼門は、年齢的にはルナを除けば最年少のせいか、組織のトップであるにも関わらず、行動がいちいち幼さを強調しているように見える。
そこが『あざとい』と由真などは思うのだが、ルナは年下だからなのか、プロフェッショナルの事務方の矜持なのか、文句も言わずににこやかに対応している。
征治と素子は助けだした女性を病院へ連れて行き、まだ戻らず、蘇芳は戻るなり自分のブースに篭って何やらキーボードを叩いていた。
「礼門君、多分これだね」
ミーティング用の大型ディスプレイに自分の画面を切り替えたが、そこに現れたのは蘇芳と恋人なのか、女性と寄り添ってのツーショット画像だった。
「あーーー!! 待った待った、ちょっと待って!」
ディスプレイ拡大モードで投影したせいか、パソコンの壁紙画像が全面に出てしまったようだ。
蘇芳はあわててブラウザに切り替えた。
一瞬だけ映った女性はどこかで見たような気がするな、と、由真はルナに視線を送ったが、ルナはやんわりと笑って言外にまた後で、という雰囲気を匂わせた。
「あれー? 蘇芳、今のってさー」
由真とルナが今はそれに触れまいと目配せしていたにも関わらず、空気を一切読まない礼門が言った。
「B食の……」
と、言いかけたところで、ルナが口元だけに笑みを浮かべて礼門に言った。
「その話は」
ルナの目が全く笑っていない事に気がついて、礼門は青ざめながら押し黙った。
「また後で、部長」
……もしかして、SaBAP最強はルナかもしれない、と、由真は思いながら、蘇芳に、続きを、と、視線を送った。
コホン、と、咳払いをして、蘇芳は続けた。
いつも冷静かつスマートな蘇芳らしからぬ様子に、由真は、あんな南雲さん初めて見たかも、と、思いつつ、視線を大型ディスプレイに移した。
そこには、とあるWebサービスのトップページが表示されていた。
『カオス・ウェディング・パーティ』
洒落たフォントでそう記されており、虚空に手を伸ばすウェディングドレス姿の女性のシルエットが印象的に配置されていた。
そのWebサービスは、いわゆる婚活サイトというやつなのだった。
「ここ数件、女性が魔獣化する件が続いているんだけど、ようやく被害者の共通点がわかった、彼女たちは、このサイトのメンバーだった」
SaBAPは、黄金川科学技術研究所(Koganegawa Institute of Science and Technology
略称KIST)内に本部を持っている。由真達の社会的な肩書は、KISTの研究員だ。
本部に戻ると、事務仕事を一手に引き受ける鳴海月(なるみ るな)が出迎えてくれた。
最奥に、全体を見渡せる席があり、ルナの席はそのすぐ横にある。由真達は各々壁に沿った形のブースに個人スペースがあるが、中央の円卓にもそれぞれの席があった。
由真は、自分のブースに入らず、まず円卓に座ってルナの入れてくれるハーブティーで一息つくことにしていた。
「由真ちゃん、おつかれ!」
ルナの笑顔はメンバー全員の癒やしだ、と、由真は思っている。
「あー、ありがとー、ルナのお茶、美味しい〜♪」
一口すすって、ぬくもりが身体に沁みこんでいくようだ、と、由真は思った。
「あ、僕コーヒーがいいな」
礼門が言うより早く、ルナは礼門の席に彼のカップを置いた。もちろんその中に入っているのはコーヒーだ。
ルナは、全員の好みを把握していて、個別に飲み物を準備してくれている。細やかなな配慮、心遣いを由真は尊敬し、折々に褒めるのだけれど、ルナとしては、それが『当たり前』のようで、一方的に恐縮されてしまう。
「あー、美味しい〜、ルナが待ってくれてると思うと、ツラい仕事もがんばれるよ〜」
いつも調子のいい礼門は、年齢的にはルナを除けば最年少のせいか、組織のトップであるにも関わらず、行動がいちいち幼さを強調しているように見える。
そこが『あざとい』と由真などは思うのだが、ルナは年下だからなのか、プロフェッショナルの事務方の矜持なのか、文句も言わずににこやかに対応している。
征治と素子は助けだした女性を病院へ連れて行き、まだ戻らず、蘇芳は戻るなり自分のブースに篭って何やらキーボードを叩いていた。
「礼門君、多分これだね」
ミーティング用の大型ディスプレイに自分の画面を切り替えたが、そこに現れたのは蘇芳と恋人なのか、女性と寄り添ってのツーショット画像だった。
「あーーー!! 待った待った、ちょっと待って!」
ディスプレイ拡大モードで投影したせいか、パソコンの壁紙画像が全面に出てしまったようだ。
蘇芳はあわててブラウザに切り替えた。
一瞬だけ映った女性はどこかで見たような気がするな、と、由真はルナに視線を送ったが、ルナはやんわりと笑って言外にまた後で、という雰囲気を匂わせた。
「あれー? 蘇芳、今のってさー」
由真とルナが今はそれに触れまいと目配せしていたにも関わらず、空気を一切読まない礼門が言った。
「B食の……」
と、言いかけたところで、ルナが口元だけに笑みを浮かべて礼門に言った。
「その話は」
ルナの目が全く笑っていない事に気がついて、礼門は青ざめながら押し黙った。
「また後で、部長」
……もしかして、SaBAP最強はルナかもしれない、と、由真は思いながら、蘇芳に、続きを、と、視線を送った。
コホン、と、咳払いをして、蘇芳は続けた。
いつも冷静かつスマートな蘇芳らしからぬ様子に、由真は、あんな南雲さん初めて見たかも、と、思いつつ、視線を大型ディスプレイに移した。
そこには、とあるWebサービスのトップページが表示されていた。
『カオス・ウェディング・パーティ』
洒落たフォントでそう記されており、虚空に手を伸ばすウェディングドレス姿の女性のシルエットが印象的に配置されていた。
そのWebサービスは、いわゆる婚活サイトというやつなのだった。
「ここ数件、女性が魔獣化する件が続いているんだけど、ようやく被害者の共通点がわかった、彼女たちは、このサイトのメンバーだった」