君はヴィラン ―冷血男子は結婚に懐疑的―
「代ヶ根さん、私」

「いいんです、聞いてみたかっただけです、私は、無表情だとよく言われますが、だからといって人の表情を読めないわけではありません、今の、私の言葉を聞いた時のあなたの表情でわかります」

 藍が歩き出すと、由真のその後に続いた。

「カオス・ウェディング・パーティは、兄の会社です、だから、あのパーティでの私の立場は、いわゆる『サクラ』です、人数合わせ、密かに場を盛り上げる為の舞台装置のようなものです」

 随神門を抜けて、本殿へ進む。

「緩嫁さんのような女性を、何人も見てきました、『結婚したい』という強い意志と、相手への妥協はしないという偏狭さを持ち、それでいて、自分は全て受け入れて欲しいという傲慢な人達を」

 藍は、歩みを止めて、由真を向いた。由真も歩くのをやめて、藍を見つめる。

「あなたが聖獣の加護をもつように、私にも、魔獣の加護があるんです、人が魔獣と化したものでは無い、純然たる凶獣、とでも呼ぶべき存在です」

 そう言って由真を真っ直ぐに見つめた藍の瞳は昏く、自分の感情を表に出さないように、自らを戒めているかのように見えた。

「私は、感情を外に出さないようにしているんです、私が感情を出すことで、誰かの心が壊れるんです、人の心の暗い感情を呼び起こし、闇の淵へ背中を押す、私は、生きているだけで害悪なんです」

「そんな……」

「私には、友達と呼べる人はいません、一族に連なる、魔獣への耐性がある者達でないと、心を食われるからです、彼女も、緩嫁さんも、もしかしたら、私のせいで、魔獣に堕ちたのかもしれません、だから、私は、人の気持ちを思いやる事を辞めました、自分の感情を表に出す事を辞めました」

 藍が言葉をつむぎ、声に出すことで、そのの感情が奔流のように由真を揺らす。
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