君はヴィラン ―冷血男子は結婚に懐疑的―
「ダメです……その、ここ、では……」

 恥じらいながら、由真が柔らかく拒み、そこでようやく藍も我に返った。

「いえ、すみません、その、私も……」

 由真は、藍の顔が赤く染まっている事に気がついた。
 
 以前、少しばかりの破顔でも、由真は珍しいと感じたが、今の藍は感情を隠す様子が全く無かった。

 由真は、秘された藍の感情に触れる事ができたのだと感じていた。

 藍の言葉の通りであれば、隠していた感情を素直に示してくれているという事なのだろう。なんて瑞々しい、少年のような表情を、由真は愛おしいと感じた。

 女として求められたからなのか、そう考えると由真は少しばかり恥ずかしいと思うのだけれど、由真自身も藍を男として求めているのがわかっているからこそ、それは喜びだった。

 初めてにしては、少しばかり濃密なくちづけを終えた後、由真と藍は、まるで少年と少女のように照れて、視線をそらした。

 それは、とてもちぐはぐな事なのだけれど、互いへの愛おしさがよりつのり、貪り合うような情欲とは違った初々しさで、心が暖かくなった。

「このまま、あなたをさらっていければいいのに……」

 藍は、由真を腕に抱き、髪をなでながら言った。

 由真は、答えず、無言で藍の腕の中にいた。

 もし、このまま、藍と行動を共にしたら、SaBAPはどうなるだろうと、由真はぼんやりと考えた。
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