君はヴィラン ―冷血男子は結婚に懐疑的―
「でも、それは」

 婚活をする人々は大なり小なり相手に対して要望はもつものだろう。由真ですら、一緒に時間を過ごす相手には、気の合う人間であったり、経済的な自立を求めていたのだから。

「そうですね、誰もがもつ、あたりまえの要望です、私が、あなたを欲しているように」

 藍はもう自分の感情を抑えるつもりが無いらしい。
 熱のこもった視線で由真を見つめた。
 由真は、自分の身体が再び熱を帯びる事を恐れるように、藍の腕の中から逃げ出した。

「だから、彼女のそうした感情の爆発を誘導したんですか? 魔獣として覚醒させる為に」

「そうです」

 さあっ、と、藍の熱をはらんだ瞳が、凍りついていくように冷淡な眼差しに変わった。

「それは、傲慢です」

「そうでしょうか? 私やあなたには、そうした力がある、力あるものが力の無いものを導くのは当然の事ではないですか?」

「緩嫁さんは、自ら『魔獣』になる事を望んだんですか?」

 由真の問いに、藍は答えなかった。

「私は、あなたとは行けません、……そして、次に会う時は……」

 思いつめた様子の由真に、藍は何事かを察した。

「……残念です、本当に」

 触れ合えたと思った。けれど、離れてしまった。

 由真はきびすを返し、その場から走り去っていった。

 藍は、走り去る由真の背中を見つめ続けただけで、一歩も動く事ができなかった。
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