君はヴィラン ―冷血男子は結婚に懐疑的―
「私は、頑丈なんです」

 しれっと言う藍に、由真は、いや、それは頑丈とか、そういうレベルの話では……と、内心思った。

「あの、助けてくれていただいて、ありがとうございました」

 まず、由真が最敬礼で謝った。

「いえ、あなたに傷ついて欲しくなかっただけですから」

「でも、私は」

「そうですね、私とあなたの属する組織は、互いに対立関係にあります。でも、ここは、あなたの属する組織の病院ですが、私を治療にかこつけて害するような事はありませんでした」

 詭弁かもしれない、と、藍は瞳を伏せた。

「ですが、私達は殺し合いをしているわけではありません、魔獣は、人を害する存在ですが、今の所は、まだその被害は出ていません」

 犠牲者が出ていない事。
 それが唯一の救いだった。

 これから、もし犠牲者が出たら。

 その仮定を、今は二人共瞳をつぶっていた。

「黛さん、私は、魔獣によって犠牲が出てもやむをえないと想っていました」

 藍は、表情をうまく作れないようだった。

「けれど、あなたに会って、考えを改めました」

 力のこもった瞳で、藍が言った。

「私達は、魔獣を産み出す事を目的にしていますが、それによって人を害する事が目的では無いんです」

 藍が、由真の手をとって言った。

「目的は、同じなんですよ、あなた達と私達は、ただ、ベクトルが違うのです」

「共闘、できないんでしょうか」

 すがるような瞳で由真が言うと、藍はわずかに顔をゆがめ、そして由真を抱きしめた。

「二つの一族、黄金川と代ヶ根には、わだかまりがありすぎるんです、もつれて絡んだ糸を、断つ事は容易ではありません、しかし」

 一呼吸おいて、藍は続けた。

「共に歩める道を探します、いえ、探してくれますか、一緒に」

 逃げる道もあるはずだ、けれど、藍は立ち向かう道を選び、共に道を探してくれないかと、由真を誘う。

「はい!」

 それは、多分簡単な事では無いのだろう。けれど、自分の宿命と、藍への思いと、両立させる方法はこれしかないのだと、由真は覚悟を決めた。

 由真は、藍の手をとる。

 なんだか、婚活とは随分違った結果になったな、と、由真は思ったが、そもそもあれは一種の潜入調査だったわけで、こんな形で協力者、というか、パートナーを得るなんて予想もしていなかった。

 やらなくてはいけない事は山のようにあるけれど、この人とならば、先に進めるような気がする、そう、由真は思った。

(終)
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