君はヴィラン ―冷血男子は結婚に懐疑的―
出会い
 婚活パーティとは、どんなものなのか、興味が無かったと言えば嘘になる。幸いにして、参加費用や諸々他衣装代も経費で落としてよいという事だったので、遠慮無く使わせてもらった。バーゲン以外で服を買ったのは、友人の結婚式に着ていく服がなくて、あわてて買った時以来だった。

 便利な事に、『婚活勝負服』で検索したところ、白やピンク、ふんわりした素材のものが好まれると書いてあった。

 由真のワードローブは色味のはっきりしたもの、どちらかといえばカジュアルかつ丈夫そうな素材が多く、その方向性とは真逆なので、この先も、自分で買う事は無いな、と、思いながら、淡いピンクのニットに、花柄膝丈スカートを選んだ。

 普段は、無造作に結わえている髪をほどき、ゆるやかなカールなどかけて、化粧にもいつもの倍以上の時間をかけた。

 いざ、勝負! と、足を踏み入れたパーティ会場で、由真は当然ながら壁の花と化して、コミニケーションをとる女性男性をぼんやりと眺めていた。

 今回は自分の為の婚活では無く、『仕事として』参加しているのだから、せいぜい積極的にあちこち声をかけていった方がいいのだろうか、とも思ったが、病院に運ばれた女性は、どちらかといえば大人しく、自分から積極的に話しかけにいくようなタイプでは無かったらしい。

 少し落ち着いてから素子が話を聞いたところ、彼女たちは『友人に誘われて』であったり、『知り合いから勧誘されて』と、比較的消極的だったらしい。

 婚活サイトに登録するというだけで、消極的とは言いがたいのではないだろうかとも思ったが、素子曰く、共通して『自分からは動かないけれど、積極的に迫られたら簡単に落ちそうな』タイプだったらしい。

 素子の人物評もなかなかに辛辣だが、ありのままの自分を受け入れてくれる理想的な誰かを求める気持ちは由真にもわかる。

 つまり、そういう女性の心に付け入るような手管で魔獣化を促すような相手という事だ。

 許しがたい事だ、と、由真は思った。

「これはこれは、壁際のサンドリヨンでしょうか」

 頭の上から声が降ってきた。随分と気取って、嫌な物言いだな、と、声がした方を向くと、長身の男が二人立っていた。

 一人は、仕立てのよさそうなスリーピースを身につけて、いかにももてそうな感じの伊達男。

 もうひとりは、つるしではなさそうだが(平均以上の長身に着丈が合っている)、隣の男と比べると、いかにもな高級そう、という感じは無い。『普通』だ。

 由真の同僚でもある南雲蘇芳も、仕立ての良いスーツを着ている。本人曰く、着回しが楽なのと、一着が高くても長く着られるので、コストパフォーマンスがよいのだそうだ。

 財閥会長の礼門は言うに及ばず。征治も、それなりのものをいつも着ている。

 そうした周囲の男と比較して、スタイルについては全く引けをとらないが、着用しているスーツはいたって普通なところに、由真は好感がもてた。

 それもそのはず、もうひとりの方の男の容貌に、由真は見覚えがあった。

 ……彼だ。

 それは、由真が通勤時にジョギングしつつ通り抜ける公園で見かける『彼』だった。いつもはジョギングスタイルしか見ていないが、フォーマルな服装だと、いっそう男前が上がっている気がした。

「あまり……慣れていなくて」

 いや、今は『仕事中』なのだ、と、思い直して、設定していたキャラクターを演じるように由真はぎこちなく言った。
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