桜の花の散る頃に
桜
「桜は散る時こそ美しい……」
夜闇に沈んだ公園で男が一人、ぽつりと呟いた。
夜風に吹かれ、男の長く透き通った髪がフワッとなびいた。
男は、髪の毛に絡まった桜の花びらを手に取り、それからしばらく、じっと静かに眺めていた。
「本当にここを出ていくのか?」
「うん。今まで、ありがとう。」
「そうか……。でも、大丈夫なのか?正体がバレたりしたら、色々と大変じゃないのか?」
「大丈夫さ。なんとか、上手くやるから。」
そう言って男____花雨は薄く整ったピンク色の唇にゆっくりと弧を描いた。
もう一人の男___鎖月は、花雨を心配そうな目で見る。
花雨は、鎖月の手を取り「大丈夫だから。」ともう一度微笑を浮かべたまま言った。
鎖月は、何も言わなかった。
< 1 / 4 >