千年前の約束を言われても、困ります
 私は考える間もなく一目散に駆け出した。降り積もった雪が足にまとわりつき、体には一気に冷たく凍りそうな空気が入ってくる。
 

(何!? いまの…!!)


 考えるのも拒否したかったのだが、さっきの光景が脳裏に焼き付いて離れない。
 怪しく光る赤いものは人間ではない、そう私の本能が叫んでいた。


「きゃあ…!!」


 前方に禍々しい黒色のドロドロとした物がゆっくりと街路を横断しているのが目に飛び込んできた。後ろには赤い見つめ、前方には黒々とした恐ろしげなもの。ここを通らなければ、家に帰れない。
 私は泣きそうになりながら、これは悪い夢だと自分を洗脳させようと何度も試みながら駆けた。
 半ば捨て身の覚悟で黒い物体と街路のほんの少しの間を潜り抜けた。
 危機を超えたことに安心する暇は無く、辺りを見回せば人間ではないものに溢れていた。顔は黒髪で見えない下半身が蜘蛛の女性や、杖をついている血だらけのおじいさん、闇夜に映える金色の一つ目を持つ巨大猫。空には霧が立ち込めており、牙のするどい大きな鳥のようなものもいた。
 建物は普段と同じなのに、いつものとはあまりにかけ離れた光景が広がっていたのだ。


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