婚活女子とイケメン男子の化学反応
どうやら、私がサーモンマリネに気を取られている間に、早くもパートナー選びの争奪戦はスタートしていたようだ。
唖然としながら会場内を見回していると、村瀬さんが呟いた。
「気になる方はいましたか?」
「えっ? あっ…いえ…まだ」
私はブルブルと首を振る。
ただブュッフェの料理を選んでいただけで、誰のこともチェックできていなかった。
「話してみたい方がいたら、どんどん自分からいって下さいね。待ってるだけじゃダメですよ」
村瀬さんはそんな言葉を残して行ってしまった。
まあ、確かに。
私みたいなのは、待ってても声なんてかけてもらえないことくらい分かっているのだけど。
自分からなんて…そんなハードルの高いこと私にできるかな。
どうしたものかと途方にくれていると、後ろから「すいません」という男性の声がした。
えっ、うそ!
もしかして、声かけられた?
いや、私のことじゃないよね、きっと。
まさかと思いながら振り向くと、参加者の男性が私を見つめながら立っていた。
決して格好よくはないけれど、人の良さそうな素朴な感じの人。
うん!
これは頑張るしかない。
「は、はい」
引きつりながらも笑顔を作る。
早くも心臓がバクバクと鳴り出していた。
けれども、彼の口から飛び出したのは……。
「何か拭くもの貸してもらえますか? あそこのテーブルなんですけど彼女がオレンジジュースを零しちゃって」
という、まさかの言葉だった。
「すっ、すいません……私、スタッフじゃないので」
それだけ言うのが精一杯。
恥ずかしくなって、そのまま彼の前から逃げるように退散した。
まさかスタッフにまで間違われるなんて思いもしなかった。
まあ、無理もないか。
こんなスーツで来た私が悪い。
ふーとため息をついた時だった。
会場の隅で、参加者の女性に腕をギュッと捕まれている村瀬さんを発見した。
あれは何をしてるんだろう?
何となく気になってこっそりと近づいてみた。
「どうしてもダメですか? スタッフと会員だって別にいいじゃないですか」
なるほど、そういうことか。
村瀬さんはカッコいいから、例えスタッフでも女性がほっとかないのか。
この差はいったい何だろう。
これはスーツのせいだけじゃないな。
ショボンとしていると、村瀬さんの声が聞こえてきた。
「すいません、お気持ちはありがたいのですが、私はスタッフの前に既婚者なので」
村瀬さんは印籠のように左手の結婚指輪を彼女に見せた。
これにはさすがに彼女も言葉を返せずに、ガックリと肩を落としながら去っていった。
そうだよね。
村瀬さんは結婚してるんだもんね。
あれ?
私まで胸がズキンと痛むのは何でだろう。
いやいや、まさかね。
私はブルルと首を振りながら、そのままアルコールコーナーへと足を向けた。