婚活女子とイケメン男子の化学反応
「ち、違います! 私と村瀬さんは不倫なんてしてません」
私が首を強く振って否定すると、河野さんは自分のスマホをジャケットから取り出して、私に見せてきた。
「でも…ちゃんと証拠の動画だって撮れてるんですよ。ほら」
そこに映っていたのは、しっかりと手を繋ぎながら海辺を歩いている私と村瀬さんの姿だった。
「こ、これって……。私達のあと付けたんですか!?」
「ええ。よく撮れてるでしょ?」
不敵な笑みを浮かべる河野さんに恐怖を覚えた。
「な…なんで……こんなこと」
「それから、こんな写真も撮れてますよ」
ショックで言葉を失っている私に、河野さんが再び差し出してきたのは、村瀬さんが私の頰に手を触れて顔を近づけている写真だった。
これって、あの時のだ。
“俺にこうして触れられるのも平気なんだ?”
そんな事を言いながら、村瀬さんが私のほっぺたを持ち上げた時“
マズい。
角度のせいで、キスしているように見えてしまう。
「あの……河野さん。誤解です。村瀬さんは私が男性に慣れるように指導してくれていただけで……これはデート講習なんです」
「デート講習? そんなサービス、あの結婚相談所には無かったはずですけど。もし僕がこの画像を持ち込んだら、あいつは間違いなく懲戒処分の対象になるでしょうね」
河野さんの言葉に震えが止まらなくなった。
どうしよう。
私のせいで村瀬さんが職を失ってしまう。
例えデート講習が正式なサービスではなかったにしても、村瀬さんは、私がちゃんと結婚できるようにと協力してくれただけなのに。
何とか村瀬さんだけは守らなきゃ。
私は河野さんの腕を夢中で摑んだ。
「お願いです、河野さん。村瀬さんは何も悪くないんです。彼を巻き込むのはやめて下さい」
必死に頭を下げる私に、河野さんは言う。
「じゃあ、もうあの男とは二度と会わないと約束して下さい。結婚相談所も退会して僕と付き合って下さい。もし、あの男と接触しているところを見かけたら、僕はこの画像を持って、あいつの上司のところへ即乗り込みますから」
もう従うしかないと思った。
だって、彼は本気でやり兼ねない。
「分かりました」
私が返事をすると、彼はニヤリと笑った。
「良かった。分かってくれて……。とりあえず今夜、仙道さんの家にお邪魔させてもらいますね。逃げてもムダですから」
そんな悪魔のような言葉を残し、去って行った彼。
“鈴乃は不幸を呼びよせるから目立たなくしておきな”
ふとお兄ちゃんの言葉を思い出す。
ごめんなさい。
全部私のせいだ。
体がガクガクと震え出して、しばらくの間、私はその場から動けなかった。