婚活女子とイケメン男子の化学反応
その後、私は河野さんに言われた通り、結婚相談所に退会の連絡をし、村瀬さんの携帯番号を着信拒否にした。
これでもう、村瀬さんに迷惑がかかることはないだろう。
辛いけど村瀬さんとはお別れだ。
どの道、彼のことは諦めなきゃいけなかった訳だから、これで良かったんだ。
そうやって、必死に自分に言い聞かせていた。
……
「お先に失礼します」
終業時間になり、私は静かに席を立つ。
すると、ちょうど営業先から戻ってきた倉本さんが、心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「仙道さん、大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ。昼に来てたお客様と何かあったんですか?」
勘のいい倉本さんは、すぐにピンときたようだ。
でも、彼女に相談したら、警察に行こうと言い出し兼ねない。それでもし、河野さんの怒りをかうようなことになって、あの画像をネットにでも流されたりしたら……村瀬さんは全てを失ってしまう。
ダメだ。
それだけは避けたい。
「大丈夫。ちょっと疲れただけだから心配しないで」
私はそんな言葉で誤魔化しながら、逃げるように会社を出たのだった。
電車に乗っている間もビクビクしていた。
いつどこで見られているか分からなかったから。
アパートに着くと、二階の部屋の前に人影が見えた。
きっと、河野さんだ。
一気に緊張が走り、胃の辺りが痛み出す。
覚悟を決めてアパートの階段を上って行くと、
「おかえり」
聞き慣れた声がした。
「え? 村瀬さん!?」
そう。
ドアの前にいたのは河野さんではなくて、村瀬さんだったのだ。
「仙道さん。退会するってどういうこと? 電話も繋がらないし、一体何があった?」
村瀬さんは私の腕を摑み問いかけてきた。
その顔はとても真剣だった。
「放して下さい。もう村瀬さんには関係ありませんから」
私も必死だった。
早く帰ってもらわないと、大変なことになる。
けれど、いくら振り払っても村瀬さんは私を放してはくれず、気づけば私は村瀬さんの胸に抱きしめられていた。
「お願いだから放して下さい」
「放さないよ。ちゃんと理由を聞くまで放さないから」
マズい。
これじゃ、まるで恋人同士の喧嘩だ。
「ダメなんです! こんなところ見られたら」
そう言いかけた時、アパートの下から『パシャ』とカメラのシャッター音が聞こえた。
まさか……。
廊下から下を覗くと、スマホをこちらに向けた河野さんがとても恐ろしい顔つきで村瀬さんのことを睨んでいた。