婚活女子とイケメン男子の化学反応
村瀬さんはベッドに腰掛け、優しく私を抱き寄せた。
「俺が迂闊だった。怖い思いさせてごめんな。まさかあいつが仙道さんに目をつけてたなんて思わなかったから」
河野さんは他の女性会員にも無理やり交際を迫まるトラブルを起こしていたらしく、先週それが発覚し強制退会処分になっていたのだそうだ。
「とにかく、あいつに何もされてなくてよかった」
村瀬さんは安堵のため息をつきながら、私を強い力で抱きしめてきた。
でも、何だかとても違和感を感じる。
恋人同士でもないのに、ベッドの上で抱き合っている私達。
私が男慣れする為の講習なのだと分かってはいても、どうしても期待してしまう。
「あの……村瀬さん」
「うん?」
「さっき言ってた事って本当ですか? 指輪は…ただの女よけって」
思い切ってそう尋ねると、村瀬さんは左手の指輪をチラリと見た。
「ああ…うん。これは単なる女よけだよ。親身に相談に乗ってると、会員さんを勘違いさせちゃうこともあるから。不要なトラブルを避ける為に嵌めてるんだよ」
「そうですか……」
「社長の肩書きもそういう理由で伏せてたんだけど…黙っててごめんね」
「いえ……」
私はふるふると首を振り、視線を床に落とした。
村瀬さんが既婚者でなかったことは嬉しかったけれど、ちょっと胸が苦しくなった。
“勘違いする会員”って、きっと私みたいな人のことだ。
それに、河野さんのことがなければ、村瀬さんは社長ということも隠して、あのまま既婚者のフリを続けていたことだろう。
私の気持ちなんか、村瀬さんにとっては迷惑でしかないのかもしれない。
やっぱり、村瀬さんのことは諦めるべき?
「あの、村瀬さん」
「ん?」
「ありがとうございました」
「え?」
「私……村瀬さんのおかげで少し自分に自信が持てるようになりました。だから、もう個人的な講習はいりません。
今度、思い切って私からのお見合いも申しこんでみよと思います」
私は笑顔でそう言うと、村瀬さんの手を振り解いた。
村瀬さんはしばらくの間、無言で私のことを見つめていたけれど。
「そっ…か。分かった」
そう呟いて、ベッドから立ち上がった。
もしかしたら引き止めてくれるんじゃないかと、心のどこかで期待していた私だったけど。
現実は、そんなに甘くはなかった。
やっぱり、私はこういう難しい恋愛には向いていないようだ。
あたりまえだ。
ちょっと外見を変えたからって、私は私のままなのだから。
「じゃあ、近いうちに面談にきて下さいね」
村瀬さんは最後にそう言い残して帰って行った。
何だか心にポッカリと、大きな穴が開いてしまったような気がした。