婚活女子とイケメン男子の化学反応
結局、週末の間、零士さんからの連絡は一切なかった。
婚活イベントで長野まで行くとは言っていたけれど…ラインまで来ないとやっぱり不安になってしまう。
月曜日のお昼休み、私は思い切って零士さんのスマホに電話をかけてみた。
『もしもし。零士さん?』
『あ~ごめんね、鈴乃……全然連絡できなくて。山奥に泊まったから電波も入らなくてさ』
零士さんの言葉にようやくホッとする。
『そうだったんですね。あ、婚活キャンプでしたっけ?』
『そう。初めての企画だったけど、15組もペアができたよ』
『うわ~すごいですね』
『鈴乃は今から昼休み?』
『はい。あ、もしよかったら、お昼一緒に』
『ごめんっ。そうしたいとこなんだけど……実は経理を任せてた子に急に辞められちゃってさ。俺、しばらく昼休み返上なんだよ』
確かに電話の向こうから、書類をめくる音やキーボードを打つ音が聞こえる。
『そ、そうですか。大変ですね。経理の仕事までなんて』
『まあ、社長の仕事は何でも屋だからね』
零士さんは笑いながらそう言った。
『もう少し落ちついたら連絡するから』
『はい。分かりました』
『ごめんね』
『いえ』
私はスマホを切った後、廊下を歩きながら考えていた。
経理の仕事なら私にだってできる
結婚するんだから、この会社は辞めたっていい訳だし。
お給料なんていらないから、零士さんの仕事を手伝ってあげたいと思った。
きっと零士さんも喜んでくれるはずだ。
差し入れにパンでも届けながら、零士さんに訊いてみようかな?
そう思い立ち、勢いよく踵を返すと、目の前に倉本さんが立っていた。
「うわぁ!」
「いや…こっちこそ、うわぁですよ。仙道さん、いきなり振り返るから」
「あ……ごめんね。ちょっと急用を思い出しちゃって」
「とかなんとか言って、どうせまたランチデートですよね?」
倉本さんがニヤリと笑う。
「いや…そういう訳じゃないんだけどね」
モゴモゴ言っていると、倉本さんがハッと思い出したように私の腕を掴んだ。
「でも、今はあんまり目立つところでデートしない方がいいかもしれません。実は仙道さん、杉田さんのことでよくない噂を立てられてます。二股がどうのとかって」
「えっ……そうなの?」
そう言えば、朝のエレベーターで他の課の女子社員達にコソコソ耳打ちされたような気もしたけれど。
「まあ、モテないOL達のやっかみですから、あまり気にする必要はないと思いますけど……念のため」
倉本さんは私にそう忠告し、食堂へと入って行った。
“男をとっかえひっかえしてた”
昔も、そんな悪口を言われた覚えがある。
モテた試しなんかなかったのに。
ちょっと憂鬱になりながら、私は零士さんのところへと向かったのだった。