婚活女子とイケメン男子の化学反応
「こ、こ、これは………違くって」
私は声を震わせながら首を振る。
ダメだ。
この状況を上手く説明できない。
どう見たって、私が葵さんを襲っているようにしか見えないのだから。
すると、葵さんがこう口にした。
「鈴乃ちゃん、とにかく降りてくれる。早く誤解とかないと、俺、零士に殺されちゃうからさ」
「あっ、はい」
私が慌てて葵さんの上から降りると、零士さんは無表情のまま向かいのソファーに腰を下ろした。
「ふーん。誤解なら早く解いたら? ちゃんと聞くから」
こうして気まずい空気の中、4人が向かい合って座った。
結局あの写真は人質に取られたままだから、葵さんが何を言い出すかと私は隣でビクビクしていた。
少しの沈黙のあと、葵さんか口を開いた。
「別に俺たちは疾しい関係なんかじゃないよ。鈴乃ちゃんは俺のカットモデルをやってくれててさ、ちょこちょこお店に来てくれてるんだよ。今日も次回の打ち合わせをしてたんだけど、俺がふざけて鈴乃ちゃんの気の抜いた顔をスマホで撮ったもんだから、鈴乃ちゃんがそれを消そうとして俺に乗っかってきたんだよ。ただそれだけ。そうだよね? 鈴乃ちゃん」
「えっ、あっ、そうなんです。写真を消そうとして夢中になっちゃって」
もう仕方ない。
葵さんの嘘に乗っかるしかない。
コクコクと頷く私に、零士さんが視線を移す。
「そっか。うん、分かったよ。疑って悪かったな」
零士さんはあっさりとそう言うと、ソファーから立ち上がった。
「じゃあ、麻里奈のことよろしくな。終わったら連絡して。俺、戻って仕事してるから」
「ああ。分かった。今日はカラーリングで良かったんだよね? 麻里奈」
「あっ、そうそう。ちゃんと綺麗にやってよね」
「任せとけって」
え?
何これ?
もうこれでお終い?
あまりの素っ気なさに拍子抜けしてしまう。
「鈴乃ももう帰るだろ? 駅までだけど送ってくよ」
なんて言われて、私はコクリと頷きながら零士さんの背中を追ったのだった。
「あっ……あの、黙っててすいませんでした。カットモデルのこととか……葵さんのお店に行ってることとか」
前を歩く零士さんに声をかけた。
葵さんとは関わらないでと言っていたし、やっぱりいい気はしてないはずだから。
すると、零士さんは振り返って優しく笑った。
「別にいいよ。それは鈴乃の自由だし、ちゃんと鈴乃のこと信じてるから大丈夫だよ」
「そ、そうですか」
でも、何となくぎこちない空気。
その後、会話もプッツリと途切れる。
「あ、あの」
「ん?」
「い……いえ」
特に言葉も浮かばなくて首を横に振った。
「じゃあ、ここで悪いんだけど気をつけて帰って」
いつの間にか駅に着いていた。
「あっ、はい」
「じゃあね」
零士さんは私の頭にポンと手を置くと、そのまま来た道を戻って行った。