婚活女子とイケメン男子の化学反応
葵さんのお店を訪ねた日から数日が過ぎた。
「すいません、お先に休ませてもらいますね」
夜の11時、私はいつものように二人に声をかけてベッドへと入る。
結局、私は相変わらずの日々を送っていた。
零士さんの態度も以前と少しも変わらない。
私に対しては優しいままだ。
だけど、そんな零士さんに対して何だか距離を感じてしまう。
笑顔なんていらないから、麻里奈さんと接する時のようにもっと素の部分を見せてくれたらいいのに。
嫉妬さえもしてもらえない虚しさで、胸がキュッと苦しくなる。
私はため息を零しながら、ベッドの中で寝返りをうった。
それでも希望はある。
何故なら、明日は零士さんの実家に行って、婚約者として紹介してもらうことになっているからだ。
仙台に住んでいるお兄さんも、私達の為に帰って来てくれることになっている。
麻里奈さんはその話を聞きながら、ちょっと複雑そうな表情を浮かべていたけれど。
ゴールまではあともう少しだ。
ベッドの中で必死に自分に言い聞かせていると、リビングから零士さんの声が聞こえてきた。
「麻里奈……この指輪何?」
どうやら零士さんは、麻里奈さんが洗面台に置き忘れた指輪を見つけてしまったようだ。
私の鼓動は一気に早くなる。
「あ…………う、うん」
気まずそうな麻里奈さんに、零士さんが問いかける。
「麻里奈……もう意地張るのやめにしない? おまえの本心を聞かせてよ」
「…………………」
「麻里奈」
「……………忘れられなかったの!」
「え」
「他の男と結婚しても、ずっと心にひっかかったままで……全然忘れられなかったのよ。だから、彼に悪いと思って離婚した。でも……今更そんなこと言ったって、もう遅いでしょ? もう…どうしていいのか分からないのよ」
「麻里奈………」
麻里奈さんの泣き声が聞こえてきた。
ついにこの時が来てしまった。
零士さんはなんて答えるのだろうか。
私は祈るような気持ちで、震える手をギユッと握る。
けれど、聞こえてきたのは残酷な答えだった。
「遅くないよ、麻里奈。大丈夫だ、まだやり直せるよ」
「え……」
「とりあえず明日さ、一緒にうちの実家においで。俺が何とかするから」
「で、でも……鈴乃さんに悪いし」
「鈴乃には明日俺から説明するよ」
「う、うん。ごめんね、迷惑かけて」
「ホントだよ。おまえが素直じゃないから」
零士さんが優しく笑う。
もうそれ以上聞きたくなくて、私は布団に潜り耳を思いきりふさいだ。
何も考えられなかった。
ただ、冷たい涙だけが頰を伝っていった。