婚活女子とイケメン男子の化学反応
「今朝、鈴乃が出て行ったよ。俺との結婚はできないって」
俺の言葉に、コーヒーを飲もうとした葵の手が止まる。
ここは都内にある葵の実家。
久しぶりに来た彼の部屋には、首から上のマネキンが所狭しと並べられていた。
「へえ~何で? 喧嘩でもしたの?」
「何でかは、おまえの方がよく知ってるんじゃないの?」
俺は真っ直ぐに葵を見つめる。
少しかまをかけたつもりだったけど、葵はふっと笑いながら、手にしたコーヒーをテーブルへと戻した。
「まさか……。俺が知る訳ないじゃん。何でそんなこと言うんだよ」
「だって、おまえいつも俺の邪魔してくるだろ? 俺にどんな恨みがあるのか知らないけどさ」
「だから、違うって……」
葵は大きくため息をついた。
「誤解だって何度も言ってるじゃん。確かに零士が付き合ってた子達とは仲良くした覚えもあるけどさ、俺は今まで手を出したことも、別れさせようとしたことも一度もないよ」
この話になると、いつもこうだ。
葵は絶対認めないし、こっちも確かな証拠がある訳じゃないから、結局いつまでも平行線のまま。
まあ、鈴乃の時だけは、ついカッとなって手を出してしまった訳だけど。
「じゃあ、おまえには心当たりもないし、鈴乃には何も言ってないって言うんだな?」
「だからそう言ってるだろ? まあ、鈴乃ちゃんもさ、ただのマリッジブルーだと思うよ? そのうちひょこっと戻ってくるんじゃない?」
「分かった。もういいよ」
葵と話してても時間の無駄だと思い、立ち上がると、ちょうどそのタイミングで玄関のインターホンがなった。
「あ、悪い。今、親いないからちょっと出てくるわ。零士はもう少しゆっくりしてろよ。な?」
葵は俺の肩をポンと叩くと、慌ただしく部屋を出て行ってしまった。
仕方なく腰を下ろし、残りのコーヒーに口をつける。
その瞬間、床に置かれたマネキンと目が合った。
見られているようで、何となく落ちつかない。
俺はソファーから立ち上がり、部屋の中をゆっくりと歩いて回った。
ふと本棚のところで立ち止まる。
俺と麻里奈と葵とで写っている写真が、飾られていたからだ。他にもサークルの皆で撮ったものや、家族写真なんかも並んでいた。
そんな中、ひとつだけ伏せてある写真立てを見つけた。
彼女の写真か?
何気なく手に取り、ふと視線を向けた次の瞬間、一気に血の気が引いた。
はっ!?
何だ、これ………。
あまりの衝撃に思考が停止する。
しばらく固まっていると、葵が階段を上がってくる音が聞こえた。
我に返り、慌てて写真立てを戻す。
「お待たせ、零士。親戚からカニが届いたんだけどさ、零士も食ってかない?」
機嫌よく部屋に入ってきた葵から、思わず視線を逸らした。
「ごめん。悪いけど、もう帰るから」
どう受け止めるべきか分からないまま、俺は葵の家をあとにした。