婚活女子とイケメン男子の化学反応

「今朝、鈴乃が出て行ったよ。俺との結婚はできないって」

俺の言葉に、コーヒーを飲もうとした葵の手が止まる。
ここは都内にある葵の実家。

久しぶりに来た彼の部屋には、首から上のマネキンが所狭しと並べられていた。

「へえ~何で? 喧嘩でもしたの?」

「何でかは、おまえの方がよく知ってるんじゃないの?」

俺は真っ直ぐに葵を見つめる。
少しかまをかけたつもりだったけど、葵はふっと笑いながら、手にしたコーヒーをテーブルへと戻した。

「まさか……。俺が知る訳ないじゃん。何でそんなこと言うんだよ」

「だって、おまえいつも俺の邪魔してくるだろ? 俺にどんな恨みがあるのか知らないけどさ」

「だから、違うって……」

葵は大きくため息をついた。

「誤解だって何度も言ってるじゃん。確かに零士が付き合ってた子達とは仲良くした覚えもあるけどさ、俺は今まで手を出したことも、別れさせようとしたことも一度もないよ」

この話になると、いつもこうだ。
葵は絶対認めないし、こっちも確かな証拠がある訳じゃないから、結局いつまでも平行線のまま。

まあ、鈴乃の時だけは、ついカッとなって手を出してしまった訳だけど。

「じゃあ、おまえには心当たりもないし、鈴乃には何も言ってないって言うんだな?」 

「だからそう言ってるだろ? まあ、鈴乃ちゃんもさ、ただのマリッジブルーだと思うよ? そのうちひょこっと戻ってくるんじゃない?」

「分かった。もういいよ」

葵と話してても時間の無駄だと思い、立ち上がると、ちょうどそのタイミングで玄関のインターホンがなった。

「あ、悪い。今、親いないからちょっと出てくるわ。零士はもう少しゆっくりしてろよ。な?」

葵は俺の肩をポンと叩くと、慌ただしく部屋を出て行ってしまった。

仕方なく腰を下ろし、残りのコーヒーに口をつける。
その瞬間、床に置かれたマネキンと目が合った。

見られているようで、何となく落ちつかない。

俺はソファーから立ち上がり、部屋の中をゆっくりと歩いて回った。

ふと本棚のところで立ち止まる。
俺と麻里奈と葵とで写っている写真が、飾られていたからだ。他にもサークルの皆で撮ったものや、家族写真なんかも並んでいた。

そんな中、ひとつだけ伏せてある写真立てを見つけた。

彼女の写真か?
何気なく手に取り、ふと視線を向けた次の瞬間、一気に血の気が引いた。

はっ!?
何だ、これ………。

あまりの衝撃に思考が停止する。

しばらく固まっていると、葵が階段を上がってくる音が聞こえた。

我に返り、慌てて写真立てを戻す。

「お待たせ、零士。親戚からカニが届いたんだけどさ、零士も食ってかない?」

機嫌よく部屋に入ってきた葵から、思わず視線を逸らした。

「ごめん。悪いけど、もう帰るから」

どう受け止めるべきか分からないまま、俺は葵の家をあとにした。







< 61 / 105 >

この作品をシェア

pagetop