婚活女子とイケメン男子の化学反応
翌朝、俺はビルの陰から、鈴乃が出勤して来るのを待っていた。
けれど、鈴乃は始業時刻を過ぎても姿を見せず、受付で確認してみると、体調不良で休みを取っているとのことだった。
「体調不良って、一体どんな病状なんでしょうか! 連絡を受けた方にお話しを聞くことはできませんか」
俺はつい興奮し、身を乗り出しながら受付の子の腕を思いきり掴んでいた。
「あ……すいません」
慌てて手を離すと、彼女は頰を赤くしながら、内線に手をかけた。
「いいですよ。本当は個人情報なのでいけないんですけど特別です。ちょっとお待ち下さいね」
「ありがとう」
そして、3分後。
彼女は俺にこう告げた。
「確認とれました。連絡をしてきたのは本人ではなくて、営業課にいる同僚だそうです。倉本という者なんですが、あっ、今、ちょうど出て行ったパンツスーツの彼女です」
「分かった。どうもありがとう」
俺は急いでパンツスーツの彼女を追いかけた。
「すいません、ちょっといいですか!」
後ろから声をかけると、彼女は足を止めて振り向いた。
年は俺よりも若そうだけど、割としっかりした感じの女性だ。
「村瀬といいます。鈴乃のことでちょっとお話しを伺っても宜しいですか?」
名刺を差し出してそう言うと、彼女の表情がみるみると険しくなっていった。
「何でしょうか」
まるで憎い敵を見るかのような目だ。
彼女が事情を知っているのは間違いないだろう。
「実は鈴乃に話があって来たんですが、体調不良で休んでいると聞きました。今、鈴乃がどこにいるのか教えてもらえませんか?」
「仙道さんならうちにいますけど、話って何ですか? 別れ話ですか? あなたが元カノとやり直そうとしてることなら、仙道さん、知ってますよ。知っててあなたの為に身を引いたんです。だから、もうほっておいてあげて下さい」
彼女はそれだけ言うと、俺に背中を向けて歩き出した。
「ちょっと待って下さい! 誤解なんです。とにかく彼女に会わせて貰えませんか!」
「誤解?」
振り向いた彼女に、前方から声がかかる。
「お~い、倉本~!! 商談に遅れるぞ~~!」
「すいません。今、行きま~す!!」
そして、再び俺に視線を戻し、こう告げた。
「じゃあ、私がまず話を聞きます。仙道さんと本気でやり直す気があるのなら、今日の12時に会社のエントランスに来て下さい。これは、あなたにとっての最後のチャンスですから」
「分かりました」
俺がしっかりと頷くと、彼女は足早に去って行った。