婚活女子とイケメン男子の化学反応

俺は会社に戻り、黙々と仕事に取りかかる。

頭は鈴乃のことでいっぱいだったけれど、今日も仕事は山のようにたまっていた。

麻里奈の抜けた穴は、思ったよりも大きかった。


そろそろか。
俺は腕時計を確認し席を立つ。

鈴乃の会社までは10分とかからないが、念の為に30分前には出ようと決めていた。

「ごめん。ちょっと出てくるから」

スタッフの子に声をかけ、俺は急いで部屋を出た。


すると、受付に葵の姿が。

「あっ、零士~!」

葵が俺に気づき手を上げる。

「葵………」

「あのさ、零士。今日、お昼一緒に行かない? 俺が奢るからさ」

葵は人懐こい笑みを浮かべながら、俺の方へと歩いて来た。

「悪いけどパス。鈴乃の居場所も分かったし、おまえに構ってる暇ないんだよ」

「へえ。分かったんだ」

葵の顔から笑顔が消える。

「じゃ、そういうことで」

俺は葵を置いて歩き出した。

「ねえ、鈴乃ちゃん、どこにいるの? 俺、今日も休みだから、迎えに行ってあげようか? 零士、仕事で忙しいだろ?」

「おまえさ…………」

「何?」

「ちょっと来いよ」

葵をミーティングルームへと連れ込み、鍵をかけた。

「この際だからハッキリ言うよ。おまえの気持ちには応えられない。だから、もう俺に執着するのはやめてくれ」

「は? 何の話だよ?」

俺は惚ける葵の正面に立った。

「悪いけど、おまえの部屋にあった写真見たんだよ。おまえが眠ってる俺にキスしながら自撮りしたやつ」

葵の目が大きく開く。
そして、少しの沈黙の後、葵はふっと笑い出した。

「そっか、バレてるなら仕方ないな。そうだよ、俺はずっと零士のことが好きだった。だから、零士が他の誰かのものになるのが許せなくてさ………ずっと邪魔してきたんだ。鈴乃ちゃんのことも憎くくてたまらなかったよ。俺は気持ちを伝えることさえできないのに、女ってだけであんなに愛されて結婚までするなんてさ。だから、言ってやったんだよ。零士が好きなのは麻里奈だって。彼女、自滅していくタイプだろ? そのうち耐え切れなくなって自分から身を引くだろうと思ったんだよ。だから、麻里奈まで送り込んだのにさ、案外悪運強かったよね。どうせならもっと上手く消えて欲しかったよな」

葵はヘラヘラと笑う。
俺はそんな彼を冷めた目で見つめた。

「頼むから、もう二度と俺と鈴乃の前に現れないでくれ。おまえに望むのはそれだけだ」

そう言い放ち、部屋を出ようとしたその瞬間、葵が震える声で呟いた。

「じゃあ、俺…………もう死ぬよ」

「は?」

慌てて振り返ると、葵は正気を失ったような顔で立っていた。

「もうどうでもいいんだよ。零士があの女のところに行くなら、もう生きてたって仕方ないしさ。この世に未練なんかないよ」

葵はそう叫びながら、勢いよく部屋を駆け出して行った。

「おい、待てよ! 葵!!」

俺は葵の後を必死に追いかけた。
葵は建物の外へ出て、そのまま車道へと飛び出して行った。

「バカ!! 戻れ、葵!!」

スピードを出した車が葵に迫る。
間に合わない!!

俺は思いきり葵の体を突き飛ばした。

次の瞬間、『ドン!!』という大きな衝撃と共に、俺は地面へと叩き落とされた。

キャーという悲鳴が上がる。
俺の名を叫び続ける葵の声も聞こえてきた。

そこで、ようやく自分が車に跳ねられたのだと気づく。
確かに体が重い。

“12時に会社のエントランスに来て下さい。これは、あなたにとっての最後のチャンスですから”

薄れゆく意識の中で、ふと頭に浮かぶ。

ごめん……鈴乃

腕時計の針はちょうど12時を指していた。



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