婚活女子とイケメン男子の化学反応
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厳しい残暑も終わりを告げ、風が心地良い季節となった。
ちょうど、零士さんのマンションを出て半年が経つ。
そろそろ前を向かなければと思うのだけど、私の心にはまだしっかりと零士さんがいて、彼への想いに囚われたままだった。
時々考えてしまう。
あの時、逃げ出さずに、きちんと向き合っていたならば、少しは違っていたのだろうかと。
正直、あの日のことはあまりよく覚えていない。
お兄ちゃんにアパートの鍵を変えられていて、倉本さんに泣きついた記憶はあるのだけど、気づいたら彼女の部屋に寝かされていたのだ。
『しばらく会社はお休みして下さいね。そんなんじゃ仕事なんてとても無理ですから』
そんな言葉をかけられてしまうほど、私は酷い精神状態にあったようだ。
その後しばらく、倉本さんの家でお世話になっていたのだけど、食事もろくに取れず、私の体はどんどん衰弱していった。
“だから言っただろ? 鈴乃はすぐに捨てられて、死にたくなるほどの深い傷を負わされるって。やっぱり鈴乃は欠陥だらけの人間なんだよ。生きてる価値なんてない”
聞こえてくるお兄ちゃんの言葉にも苦しめられ、もう一層のこと死んでしまおうかとさえ思った。
けれど、心の中に零士さんが現れて私に言った。
“違うよ、鈴乃。鈴乃のせいじゃない。俺が麻里奈を忘れられなかっただけなんだ。鈴乃は何も悪くないよ。だから前を向いて生きてくれ。鈴乃なら絶対に幸せになれるから”
皮肉にも、私を絶望の淵から救い出してくれたのは零士さんだった。
そうだ。
私は失恋をしたんだから辛くて当たり前なんだ。
誰が悪い訳でもない。
この痛みをちゃんと受け止めよう。
ギリギリのところで、そう思い直すことができた。
けれど、あまりの切なさに涙は止まらなかった。
そんな私に倉本さんか言った。
『仙道さん、ちゃんと思いきり泣いて下さい。今は辛いと思いますが、いつかきっと前を向ける日が来ますから』
彼女の言葉に頷きながら、私は子供のように大声を出して泣いたのだった。
その後、私はすぐに会社を辞めた。零士さんと麻里奈さんのいない街で、ゼロからやり直そうと決意したのだ。
派遣会社に登録し、医療機器を扱う会社の事務についた。ちょうどそのタイミングで倉本さんも大阪支社への異動が決まり、私は彼女の家を出て会社近くのアパートに引っ越した。
こうして再スタートを切った私だけど、心はいつまでも零士さんを想ってしまう。
彼を忘れられる日なんて来るのかな。
大きくため息をついた時、倉本さんがこちらに手を振りながら駅の改札から出てきた。
私はベンチから立ち上がり、笑顔を作る。
「仙道さん、お久しぶりです」
「うん。久しぶり」
顔を合わせるのは1カ月ぶり。
青山主任と遠距離中の彼女は、こうして月に一度、週末を東京で過ごす。そのついでに私にも会いに来てくれるのだ。
「調子はどうですか?」
「うん……まあ、何とかね」
決して良いとはいえないけれど、当時に比べれば随分マシだ。
「そうですか。じゃあ、今日は焼き肉ですかね」
「えっ、昼間から?」
「はい。昼間からです。スタミナつけましょ」
倉本さんはにっこり笑うと、私の手を引いて人混みの中を歩き出した。