婚活女子とイケメン男子の化学反応

けれど、

「仙道様、お待たせ致しました! お相手の方がお見えになりましたよ」

タイミング悪く、スタッフの女性が戻ってきてしまった。

「いえ、あの………私」

どうしよう。
こんなところでお見合いなんてしてる場合じゃないのに。
早く零士さんのところにかけつけたいのに。

頭が混乱して、上手く言葉がでない。  

そうこうしているうちに、「さっ、どうぞ、お入り下さい」と声がかかって、とうとう相手の男性が部屋の中に入ってきてしまった。

仕方ない。
もうこうなったら、直接本人に謝ろう。

そう思って、入ってきた男性の方へ足を踏み出したのだけど、私は彼を見て固まった。 

「うそ………………」

これは幻だろうか?
それとも夢?

瞬きするのも忘れて、私は彼の顔をポカンと見つめていた。

「こちらは村瀬零士様です。村瀬様は都内で会社を経営なさっていて、お年も仙道様の条件通り26歳でらっしゃるんですよ」

スタッフの女性が得意げに紹介した。

そう。
お見合い相手として現れた男性は、まさかの零士さんだったのだ。

どうしてこんな事になっているのかはサッパリ分からなかったけれど、零士さんの顔を見たらホッとして、涙がポロポロとこぼれ落ちた。

「鈴乃………。やっと見つけた」

零士さんはそう呟くと、私を力強く抱きしめたのだった。



………………



「おめでとうございます! お二人は『ご成婚』ということで宜しいですね?」

担当スタッフが、目を輝かせながら私達に問いかけた。


遡ること一時間前。
再会を果たした私達は、しばらくの間二人だけにしてもらい、今までのことをお互いに打ち明け合った。

零士さんの話は全て葵さんの手紙の通りだった。
指輪のことも、麻里奈さんのことも、葵さんのことも……そして、事故のことも。

病院に運ばれた零士さんは、一週間もの間、生死を彷徨っていたそうで。

何とか一命を取り留めた後3カ月間入院し、それから更にリハビリ施設のある病院に2カ月間いたそうだ。

先月ようやく退院し、私を探し回ってくれていたそうだけど、私がこのビルに入っていったという情報を葵さんから聞いて、この結婚相談所に入会し、私を見つけたのだという。


こうして全ての誤解が解けた私達は、何度も熱いキスを交わし、愛を確かめ合った。半年分の空白を埋めるように。

そして、ついキスに夢中になりすぎた私達は、ノックの音に気づけなかったのだ。




「そう……ですね。はい」

零士さんが苦笑いを浮かべて頷くと、彼女の顔がぱあっと輝いた。

「ありがとうございます!! それでは、成婚料としてお一人様20万円になります。お振込で結構ですので、どうぞ宜しくお願い致します」

「えっ……成婚料!?」

振り込み用紙を指し出す彼女に、思わず声を上げてしまった。

成婚料なんて、すっかり頭から抜けていた。

失敗した。
何だか零士さんにも申し訳ない。

まあ、きっと零士さんはプロだから、ちゃんと分かってはいたはずだけど。

ガックリと肩を落としていると、零士さんが耳もとで呟いた。

「鈴乃に会わせてもらえたんだから、こんなの安いもんだよ」

私に甘い笑みを浮かべながら、零士さんは二人分の振り込み用紙を胸ポケットにしまっていた。





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